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【ルルド(7/12更新)】
山口和幸の現場30周年ルポ #7

19/07/12その他

ツール・ド・フランス2019の開催期間中、SNSでツール・ド・フランス現地レポートをお届けしている、ライターの山口和幸さんのミニコラムをHPにてご紹介します!
現地で取材をして今年で30周年となる山口さんならではのコラムをお楽しみください!


ルルド (7/12)

フランスを訪問する旅行者はパリに宿泊することが多いはずだが、ツール・ド・フランス取材では最終日くらいだ。つまりパリは毎年1泊かぎりで、ボクの場合はそれよりもルルド泊のほうが圧倒的に多い。たいてい2〜3泊はピレネー山麓のこの巡礼地で過ごす。

ルルドは奇跡の泉がわき出るという伝説で知られ、世界中から敬虔なキリスト教徒が集まってくる聖地だ。そのためホテルの部屋数が格段に多く、ツール・ド・フランスの時期でも簡単に空き部屋を見つけることができるのが魅力だ。
さらに毎年のように通過するツールマレー峠やオービスク峠へのアクセスもよく、ここをベースに連泊していれば3ステージは取材できるのである。40kmほど離れたところには町を挙げて大会をサポートするポーがあって、ツール・ド・フランスの休息日に指定されることも多い。つまりこの日は移動がなくホテルに連泊できるので、絶好の洗濯日和ということになる。

そんないきさつもあってルルドに行けばコインランドリーの位置もそこのおばちゃんも、安くておいしいレストランもすべて把握している。中華もあればアフリカのクスクスもある。そしてフランスのイタリア料理はあまりおいしくないのだが、ルルドのイタリア系レストランはイタリア人ばかりが来るので、きちんとしたものを出さないと怒られてしまうからおいしい。

ルルドではようやく暗くなる夜10時ごろに巡礼者のミサが始まる。参道の土産物屋でろうそくと燭台を購入し、奇跡の水を持ち帰るための容器を手にして世界各国から信者が集まってくる。足取りもおぼつかない老人、車イスの人、余命幾ばくもない人も簡易ベッドで列に加わる。

そのシーンを目撃したときは衝撃的だった。信仰や宗教のことはわからないが、命の尊さを痛感して心臓がわしづかみにされた思いだった。家族全員が健康でいて、こうしてホコリまみれになりながらもツール・ド・フランス取材ができる健康に感謝しなければと顔面蒼白になった。その気持ちを忘れないためにも、毎年ルルドに連泊するのである。


普段は敬虔なカトリック教徒がろうそくを掲げてミサの行進をするところにツール・ド・フランスが乗り込んだ

ライター/山口 和幸 Kazuyuki Yamaguchi

ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」。大会期間中は、Twitter(@PRESSPORTS)やホームページで現地情報を発信。

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