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山口和幸のツール・ド・フランス取材レポート#4
「自転車と健康維持・増進」

16/07/23

「自転車をやると脚が太くなるからイヤだ」とたまに言われるのだが、ツール・ド・フランスを走るプロ選手を見てごらんよ。太ももはある程度発達しているものの、ふくらはぎの筋肉が浮き出て見えるほど細くて、体脂肪率は同世代男性の半分ほどしかない。つまりフットネスとして効率的な有酸素運動を長時間こなしているので、体脂肪が極限までなくなってしまうのだ。

一般のサイクリストでもこの脚線美

一般のサイクリストでもこの脚線美(撮影=山口和幸)

「そりゃあツール・ド・フランスのように1日200km走ればフィットネスになるよ」と言うなかれ。週末に半日ほどサイクリングできる時間が取れれば効果はある。

フィットネスを目的としてスポーツする場合、有酸素運動を行う持久系スポーツをすることが手っ取り早い。持久系スポーツはサイクリングだけではないが、カラダの抹消の血管まで酸素を送り込んで細胞を活性化させるためには、息がはずまない程度の運動を長く続けることが重要だ。あくまでものんびり、それぞれの体力レベルに応じて運動強度を調節できるのは自転車ならではである。

運動の強さは息が「ハアハア」とはずまない程度。心拍数が高すぎると大きな血管ばかりに血液が循環するので、毛細血管に血がめぐらないのでうまく脂肪からエネルギーを引き出せない。友だちと一緒に走っているなら無理なく会話ができる程度がいいが、自転車によるフィットネスはこの運動強度を適度に調節できるのがいいところだ。キツければスピードを緩めればいいし、坂になったらギヤチェンジすればいい。

モンバントゥーに上る一般サイクリスト

モンバントゥーに上る一般サイクリスト(撮影=山口和幸)

記者であるボクは選手らを撮影する必要がないので、観客でごった返してとても危ない状況にあるツール・ド・フランスのコースはできるだけ走らない。山岳ステージなら隣の峠を使ってゴールを目指したほうが安全だからだ。そんなときに通過するルートも地元サイクリストでいっぱいである。こっちのサイクリストはツール・ド・フランスにはあまり興味がなくて、ただ単に走るのが好きな人も少なからずいる。そんな走り屋にしてみればツール・ド・フランスのコースを外れたほうが関係車両もいなくて走りやすいのである。

ツール・ド・フランスのコース近くは世界中からやって来たサイクリストでいっぱい

ツール・ド・フランスのコース近くは世界中からやって来たサイクリストでいっぱい(撮影=山口和幸)

峠のカフェには手作りのバイクラックが設置されていて、思い思いにランチを楽しんでいる。みんなプロ並みの体型をしていて、とりわけ脚が健康的に細くて引き締まっているのがわかる。ヨーロッパの人は加齢とともに太ってしまう傾向にあるようだが、自転車に乗っている人は例外で、それぞれが無理なく健康維持をしているように見える。だから自転車のあるライフスタイルって幸せだなと感じる。

「なぜ自転車は大事か。それは健康に寄与する道具だから」 オランダ王国大使館のケース・ルールス全権公使がこんなことを語っていたことを思い出した。そのときは自転車レーンの整備や自転車通勤の奨励で成功した英国ロンドンの例を挙げていた。
「自転車で通勤するようになって多くの市民が健康になり、ロンドンでは健康保険料が400ユーロも安くなったのです」

ツール・ド・フランスを自転車で回りながら楽しむ主催者公式ツアーもある。ゴージャスな古城に宿泊して上等なディナーに舌鼓を打つサイクリングツアーだ。コースの一部を午前中に走るのだが、サポートカーが伴走しているので初級者でも安心だ。あるいはツール・ド・フランスの1区間を走る一般参加レースがあり、日本からも公式ツアーが催行されている。引退したらいつかあんなツアーに参加してみたいと思う。いや、やめとこうかな。安宿で仕事しながらレースを追った方がラクだから…。

ツール・ド・フランスの1区間を走る一般参加レース「エタップ・デュ・ツール」

ツール・ド・フランスの1区間を走る一般参加レース「エタップ・デュ・ツール」(©ASO/M.Molle)

エタップ・デュ・ツールは日本を含めた海外選手など1万5000人が参加する

エタップ・デュ・ツールは日本を含めた海外選手など1万5000人が参加する(©ASO/P.Alessandri)

 
文:山口 和幸

 

山口和幸
スポーツジャーナリスト。日本国内におけるツール・ド・フランスを取材する第一人者。
1989 年にツール・ド・フランス初取材、1997 年から現在まで、全日程を取材している。
著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」など。

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