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山口和幸のツール・ド・フランス取材レポート
#1「ツール・ド・フランス入門」

15/06/26

世界最高峰のサイクルロードレースとして知られる「ツール・ド・フランス」。欧州メディアでは「オリンピック、サッカーのワールドカップに並ぶ三大大会」と記述されることもあり、その開催規模と知名度は日本では想像できないほどのスケールだ。創設は1903年。二度の世界大戦による中断時期があり、2013年に100回大会を迎えた。
23日間をかけてフランスや近隣国を自転車で一周するレースで、毎年必ずアルプス山脈とピレネー山脈という難所が待ち構える。総距離は約3,400km にもなり、「地上で最も過酷なスポーツ」と言われることもある。

©ASO/B.Bade

ダイナミックなレース展開と駆け引き。フランスの美しい景観などにひかれて、日本で熱心なファンは多い。そういった人たちは詳細なルールを熟知しているだろうが、今回はツール・ド・フランスをあまり知らない人に向けて、「まずはどこに着目したらいいか」を紹介してみたい。シンプルな目線で見てみれば、ルールは意外と単純だ。

簡単に言ってしまえば、マラソンを1日1回、それを23日連続で行うというイメージだ。「ヨーイドン!」でスタートして、ゴールまでの着順やタイムを競うレースが1日ごとに行われる。これを23日間続ける。厳密には国際規定で2日間の休息日が設定されていたり、スキーのアルペン競技のように1人ずつスタートしてタイム計測する日があったりする。
毎日のレースで所要時間を計測し、その日までの累計タイムが一番少なかった選手が1位となり、黄色いリーダージャージ「マイヨジョーヌ」を着用する。仮にその日に1位でゴールしても、累計タイムの1位が別の選手になれば、その選手にマイヨジョーヌが渡される。最終的なゴールであるパリ・シャンゼリゼでマイヨジョーヌを獲得した選手が総合優勝者である。
つまりツール・ド・フランスとは、総距離約3,400kmの果てにたった1枚しかない黄色いジャージをめぐる争いなのである。

©ASO/X.Bourgois

それ以外に、1日ごとに1着でゴールした選手は区間優勝者として表彰されたり、緑や赤い水玉や白いジャージも設定されている。ただし「これはアクセサリーだよ」と、フランスの英雄的存在で、この大会の渉外担当を務めるベルナール・イノーがキッパリと断言しているので、初めて見る人はまずは見なかったことにしていいと思う。

一番重要なのは、マイヨジョーヌをだれが着ているかということなのだ。多少余裕が出てきたら、緑のマイヨベールは平たん区間のゴール勝負が得意なスプリンター向き、赤玉のマイヨブラン・アポワルージュは上りに強い山岳スペシャリスト向け、純白のマイヨブランは25歳以下の新人賞と覚えていこう。

©ASO/B.Bade

沿道を埋め尽くす大観衆、テレビにかじりつく視聴者はこういったドラマに熱くなり、だれかれかまわず「頑張れ!」と応援してしまうはずだ。ツール・ド・フランスは選手ひとり1人が23日間かけて最終到着地点のパリ・シャンゼリゼを目指すのだが、調子のいい日もあれば悪い日もあるだろう。23日間をかけて、ピレネーを越えアルプスを越えてだれが世界で一番速いのか?シャンゼリゼ大通りにマイヨジョーヌを着て凱旋した選手こそが真のチャンピオンとして称えられるのである。

©ASO/B.Bade

©ASO/B.Bade

ツール・ド・フランスさいたまクリテリウムが開催されるにあたって、大会を主催するA.S.O.代表のジャン=エティエンヌ・アモリ氏は、「シャンゼリゼの次のステージは“さいたま”なのです」と臆することなく豪語した。
シャンゼリゼの表彰台でマイヨジョーヌに袖を通した世界最強の男、クリス・フルームやヴィンチェンツォ・ニーバリが過去2大会来日し、さいたまでも活躍を見せた。今年はいったいだれがさいたまを熱狂させてくれるのだろうか。

©ASO/Y.Sunada

2013 ツール・ド・フランス総合優勝
クリス・フルーム

©ASO/Y.Sunada

2014 ツール・ド・フランス総合優勝
ヴィンチェンツォ・ニーバリ

 文:山口 和幸

 

2014 ツール・ド・フランスダイジェスト動画


Best of - Tour de France 2014 投稿者 tourdefrance_en

 

山口和幸
スポーツジャーナリスト。日本国内におけるツール・ド・フランスを取材する第一人者。
1989 年にツール・ド・フランス初取材、1997 年から現在まで、全日程を取材している。
著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」など。

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