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山口和幸のツール・ド・フランス取材レポート#2
「自転車レースには特別なジャージがある」
ツール・ド・フランスには色とりどりなチームジャージにまぎれて、特別なデザインのジャージがいくつか見られる。ツール・ド・フランス開幕1週間前に行われた各国ナショナル選手権の覇者が着るナショナルチャンピオンジャージだ。原則としてその国の国旗がベースとなってデザインされている。そしてもう一つ、世界で最も強い選手が着る5色の虹色ジャージ「アルカンシエル」がある。世界チャンピオンの称号であり、今大会にはスロバキアのペーター・サガンが着用して登場した。
サガンはツール・ド・フランスさいたまクリテリウムにも来日して、さいたま市内の高校書道部で筆をふるったことがあるので、そのユニークなキャラにふれた日本の人も多いと思う。ちょっとバッドボーイな容姿や振る舞いが特徴で、とりわけ女性ファンの間では一番人気だ。
中央ヨーロッパにあるスロバキア出身。もともとはシクロクロスやMTBを走っていた選手で、2010年にイタリアのリクイガスとプロ契約を交わし、ロードレースで持ち前のスプリント力を発揮させながら頭角を現してきた。初出場となる2012年のツール・ド・フランスで区間3勝を挙げるとともに、「キング・オブ・スプリンター」の称号とも言えるマイヨ・ヴェールを獲得した。
さて、ツール・ド・フランスでも4つの特別なジャージが用意されている。最も価値のあるの個人総合1位の黄色いジャージ、マイヨ・ジョーヌ。山岳賞の赤い水玉ジャージ、マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ。そして新人王が着る純白のマイヨ・ブランだ。各大会のこういったリーダージャージは第1優先着用が義務づけられているので、ナショナルチャンピオンジャージであろうとアルカンシエルであろうとそれを脱いで与えられたリーダージャージで走らなければならない。
アルカンシエルを誇らしく着ていたサガンも第2ステージで総合1位に立つとゴール後の表彰台でマイヨ・ジョーヌにソデを通した。たった1日でもこのマイヨ・ジョーヌを獲得するとそれだけで生涯の名誉になる。世界チャンピオンであるサガンにとっても初めての受賞で、壇上でうれしそうな仕草を見せた。
スロバキアはツール・ド・フランス出場に関して日本よりも後身国だ。日本選手は1927年の川室競をはじめとしてこれまで4選手が出場しているが、スロバキアは2008年にペテル・ベリトスが初出場し、サガンを含めて3選手しか出場していない。しかしその実績はすぐに日本を上回った。昨今は東欧諸国の出身選手が活躍する傾向にある。
サガンはその後のツール・ド・フランスで、2015年まで4回連続のマイヨ・ヴェールを獲得。今年も5年連続のマイヨ・ヴェール獲得をねらうが、そのジャージのままでさいたまに来てくれるとうれしい。
スポーツジャーナリスト。日本国内におけるツール・ド・フランスを取材する第一人者。
1989 年にツール・ド・フランス初取材、1997 年から現在まで、全日程を取材している。
著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」など。