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【アルプス(7/10更新)】
山口和幸の現場30周年ルポ #5

19/07/10その他

ツール・ド・フランス2019の開催期間中、SNSでツール・ド・フランス現地レポートをお届けしている、ライターの山口和幸さんのミニコラムをHPにてご紹介します!
現地で取材をして今年で30周年となる山口さんならではのコラムをお楽しみください!


アルプス (7/10)

目の前に広がる大岸壁の一大パノラマ。牧草地を吹きそよぐ風の清涼感。日本人はアルプスにそんなイメージを持っているだろうか? じつはまさにその通りだ。これにおいしいチーズが加わる。正真正銘の「リゾート地」とはアルプス以外のなにものでもない。

ツール・ド・フランス取材でアルプスを訪問するのは最大の楽しみだ。もちろん選手にとっては標高2000m超の山岳が波状的に待ち構えているから、好きではないという人もいるはず。でも取材陣も観客も、このアルプスという過酷な舞台で演じられるドラマに胸躍らせて足を運ぶ。そのドラマチックなシーンを目撃できるのなら、山麓から10km歩こうが、大渋滞で数時間クルマが1mmも進まなくてもへっちゃらだ。
ツール・ド・フランスが世界最大の自転車レースとなった理由は3つある。1つはバカンス時期に開催されること。2つ目は農業大国であるゆえに広大な大地を持つフランスが舞台となったこと。そして3つ目はアルプスとピレネーがコースの一部となっていることだ。1つでも欠けていたら自転車工業国のイタリアや強豪選手揃いの他国に取って食われたことだろう。

さて、アルプスとピレネーだが、どっちがエラいかといえば、ボクはアルプスだと思う。7月後半のカラッとした晴天はアルプス固有のものだし、ピレネーにただよう陰湿さもない。
ツール・ド・フランスを追うベテランカメラマンに山岳ステージの画像を見せれば、百発百中で「これはアルプス。こっちはピレネー」と言い当てるという都市伝説もある。これは植生の違いや空気の透明度を判断して、両者を区分することが簡単にできるからだという。

毎年の取材で楽しみなアルプスなのだが、滞在できるのは2日程度だ。最高に快適だし、朝はすがすがしいし、サンドウィッチとワイン片手に草原でランチすればハイジの気分。夜はサボワ料理店を訪ねてもいいし、食材を買い込んで滞在型レジデンスで取材仲間と料理してもいい。
でもたった2日の夢物語。未明には氷点下という世界から、下山すればその日のゴールはセミ時雨の泣く気温40度という世界かも。これだからツール・ド・フランス取材はやめられない。


ライター/山口 和幸 Kazuyuki Yamaguchi

ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」。大会期間中は、Twitter(@PRESSPORTS)やホームページで現地情報を発信。

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