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[HISTOIRE -歴史-]イノーが窮地となったサンテティエンヌ
山口和幸の現地通信 #13

22/7/15

ツール・ド・フランス2022の開催期間中、SNSでツール・ド・フランス現地レポートをお届けしている、ライターの山口和幸さんのミニコラムをHPにてご紹介します!
CULTURE(文化)、HISTOIRE(歴史)、VOYAGE(旅)の3つのテーマでランダムにお届けします。
コラムを読んでいるだけで現地を旅する気分が味わえます。
長年現地でツール・ド・フランスの取材をしている山口さんならではのコラムをお楽しみください!


Twitterでは山口さんの現地レポートをお届けしていますので、こちらもお楽しみに! https://twitter.com/saitamacrite


[HISTOIRE -歴史-]イノーが窮地となったサンテティエンヌ

第13ステージのゴール、第14ステージのスタートとなるサンテティエンヌはフランス南東部にあるロワール県都だ。ゴールとその翌日のスタートのホストシティとなるためには、大会協力金も2倍になるということで、近年は財政豊かな大都市しか立候補できない。そしてサンテティエンヌはラグビーワールドカップ2023フランスの試合会場となる9都市の一つでもある。

サンテティエンヌのゴールで最もセンセーショナルだったのは1985年のツール・ド・フランスだ。NHKが初めて現地取材に乗り込み、「世界最大の自転車レース、ツール・ド・フランス」と題してNHK特集を報じた。多くの日本人が「こんなスポーツがあるんだ」と初めて知らされ、これがきっかけとなって日本社会にロードバイクブームが到来する。

この年はフランスのベルナール・イノーが大会序盤から強さを見せつけ、史上最多タイとなる5回目の総合優勝は決定的かと思われた。アルプスでは、区間勝利をねらって飛び出したコロンビアの山岳王ルッチョ・エレラと協力して、後続に残ったチームメートであり、総合優勝争いのライバルでもあるグレッグ・レモン(米国)との差を広げた。

ところがサンテティエンヌにゴールする第14ステージで不測の事態が発生した。レースは独走でエレラが制したのだが、2位をねらったゴールスプリントに参加したイノーがクラッシュ。鼻骨を折り、顔面から真っ赤な血をしたたらせながらなんとかゴールラインを通過した。

翌日はスタートを切ることができたが、息をするのもやっとの状態。マイヨジョーヌを着用するイノーのアシスト役であるレモンは、他チームのアタックに加わらないように自分の心をコントロールした。今ならエース交替も想定できるほどのイノーの負傷だったが、フランス選手が最多勝利にあと一歩という状況で、米国選手が代役で栄冠を手中にすることなど許されない雰囲気だった。

最終的にイノーが総合優勝した。レモンは最終日前日の個人タイムトライアルを勝ち、米国選手初の区間優勝者という記録のみに甘んじた。

地元フランス勢が最後に総合優勝したのはこのとき。すでに37年前のできごとで、つまり37歳以下のフランス人は自国選手が世界最高峰の自転車レースで総合優勝したところを見ていない。

サンテティエンヌ
©Pressports.com

プロフィール

ライター/山口 和幸 Kazuyuki Yamaguchi
ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」、「シマノ〜世界を制した自転車パーツ〜堺の町工場が世界標準となるまで」(光文社)。