選手に劣らぬほどタフな沿道のフェンス設営チーム
ツール・ド・フランスの基礎知識 #16
ツール・ド・フランス2023の開催期間中、SNSでツール・ド・フランス現地レポートをお届けする、ライターの山口和幸さんのミニコラムをHPにてご紹介します!
今年のテーマは、「ツール・ド・フランスの基礎知識」。星の数ほどある伝説のストーリーから、テレビに映らない舞台裏まで。
現場取材30年の記者が21ステージにわたってコラムを連載します。
長年現地でツール・ド・フランスの取材をしている山口さんならではのコラムをお楽しみください!
Twitterでは山口さんの現地レポートをお届けしていますので、こちらもお楽しみに! https://twitter.com/saitamacrite
選手に劣らぬほどタフな沿道のフェンス設営チーム
ツール・ド・フランスに欠かせないものはいくつかあるが、コース脇のフェンスもそのひとつ。軽合金のパイプで作られた自立式の柵で、選手と観客の安全を確保すべきところに設置されている。
フェンスの設営は基本的にレース当日だ。スタート地点では夜明けとともに25トンの大型カミオンが乗りつけ、2連結した荷台からおびただしい数のフェンスを下ろしていく。コースを完全封鎖するだけでなく、スタート前に選手を乗せたチームバスが駐車するスペース、出走サインの舞台前などを仕切っていく。
ゴール担当のグループは別行動で、ゴール前の道路脇にあっという間にフェンスを設置。ハイスピードとなる平坦ステージでは安全を確保するために設営の長さは10kmにもなる。道路の両端に設置するから総距離はその倍だ。
山岳ステージでは峠道の幅員が狭く、そのためフェンスを設置しにくいこともある。選手のスピードもそれほど速くないのでかつてはフェンスなしだったが、近年は殺到する観客を制御するためにゴール前のフェンス設営距離が長くなった。選手と観客との接触も頻繁に発生しているからだ。
これはファンにとってはちょっと残念。勝負どころの山岳で選手を応援するために直前まで身を乗り出し、間一髪で避けるのも美学。ツール・ド・フランスの映像では優勝を争う選手が人垣をかき分けるように上る光景が絵になるのだ。
先頭集団を興奮のるつぼとして迎えた観客たちも、後続選手たちがくるころにはちょっと冷静になる。ミネラルウォーターのボトルを手渡したり、いまにも止まりそうな選手のお尻を押してあげたりする。こうしたほのぼのしたシーンを消し去ってしまったのはフェンスの功罪だ。
レースが終わるとフェンス設営班はさっさと仕事にとりかかる。10kmにわたって設置したものを同じようなスピードで撤去していくのだ。下山したい関係者や観客のクルマも彼らにはさからえない。唯一の下山ルートを彼らが封鎖して、自らの仕事を第一優先でとりかかる。ツール・ド・フランス終了後の大渋滞はそれが原因で発生するのである。
それにしても設営班。重労働を23日間もよくこなすものだ。きっと選手以上にタフな男たちに違いない。
フェンス設営係の手際よさは目を見張るものがある
プロフィール
ライター/山口 和幸 Kazuyuki Yamaguchi
ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」、「シマノ〜世界を制した自転車パーツ〜堺の町工場が世界標準となるまで」(光文社)。