ヘリの爆音が聞こえると興奮が最高潮に達する
ツール・ド・フランスの基礎知識 #18
ツール・ド・フランス2023の開催期間中、SNSでツール・ド・フランス現地レポートをお届けする、ライターの山口和幸さんのミニコラムをHPにてご紹介します!
今年のテーマは、「ツール・ド・フランスの基礎知識」。星の数ほどある伝説のストーリーから、テレビに映らない舞台裏まで。
現場取材30年の記者が21ステージにわたってコラムを連載します。
長年現地でツール・ド・フランスの取材をしている山口さんならではのコラムをお楽しみください!
Twitterでは山口さんの現地レポートをお届けしていますので、こちらもお楽しみに! https://twitter.com/saitamacrite
ヘリの爆音が聞こえると興奮が最高潮に達する
ツール・ド・フランスの沿道で待ち構える観衆のボルテージは選手が近づくにつれて高まっていく。交通規制された道を関係車両だけが慌ただしく走り去り、憲兵隊のバイクがにらみをきかせながら悠然と通過していく。1時間前には派手な音楽を鳴らした広告キャラバン隊が。そしてレース展開を伝えるアナウンス車。報道車両。カメラマンバイク。露払い役のテットドクルス(先導車)…。
興奮のボルテージは一気に高まり、そして最高潮に達するのが、先頭選手の上空を旋回するヘリコプターの爆音を聞いたときだ。すぐに必死の形相でゴールを目指す第一集団が視界に飛び込んでくる。これがツール・ド・フランスの特徴的なシーンなのだ。
ヘリコプターはツール・ド・フランスの運営になくてはならない機材だ。憲兵隊、フランス警察、消防、医療サポートに加え、空撮カメラ、バイクからの撮影映像を受信して基地局に飛ばす役目のヘリも飛ぶ。ツール・ド・フランスとともに20機ものヘリが常に上空を旋回するのである。
広大な原野を持つフランスでは日本と違ってヘリが身近な存在だ。飛行場やヘリポートでなくても、ちょっとした牧草地に離発着できる。規制が緩いのかもしれないが、それだけ原っぱが多いのだ。テレビの人気番組でもヘリを何台も飛ばして宝探しをするものがある。チャーター料そのものが安いのかもしれない。
山岳の頂上ゴールで優勝したりマイヨジョーヌを着た選手を、表彰式やアンチドーピングコントロールを済ませた後にホテルまで送り届けるのもヘリの役目だ。眼下に大渋滞の車列をながめながら、勝者は真っ先に下山できるのである。
ヘリの弱点は悪天候時に飛べないこと。こうなるとバイク撮影の国際映像が受信できないのだが、主催者は万全の対策を講じている。専用飛行機を雨雲の上に巡航させて、バイク映像をキャッチしている。土砂降りのステージでも日本のJスポーツで生中継が楽しめるのはこのおかげだ。
フランスのヘリはどこにでも着陸する。テニスコートも臨時ヘリポート
プロフィール
ライター/山口 和幸 Kazuyuki Yamaguchi
ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」、「シマノ〜世界を制した自転車パーツ〜堺の町工場が世界標準となるまで」(光文社)。