会場設営班は昼夜逆転で、ただひたすら職務に集中
ツール・ド・フランスの基礎知識 #10
ツール・ド・フランス2023の開催期間中、SNSでツール・ド・フランス現地レポートをお届けする、ライターの山口和幸さんのミニコラムをHPにてご紹介します!
今年のテーマは、「ツール・ド・フランスの基礎知識」。星の数ほどある伝説のストーリーから、テレビに映らない舞台裏まで。
現場取材30年の記者が21ステージにわたってコラムを連載します。
長年現地でツール・ド・フランスの取材をしている山口さんならではのコラムをお楽しみください!
Twitterでは山口さんの現地レポートをお届けしていますので、こちらもお楽しみに! https://twitter.com/saitamacrite
会場設営班は昼夜逆転で、ただひたすら職務に集中
ツール・ド・フランスの各ステージには当然のようにスタートとゴールがある。どちらの規模が大きいかというと、それは圧倒的に後者だ。スタートに選手や取材陣が滞在するのは長くて2〜3時間だが、ゴールは1日がかりで選手の到着を待ち受ける関係者でごった返すからだ。
非常に広大な設営スペースを必要とするのも特徴だ。ゴール地点の横にはゾーンテクニックというテレビ中継車のスペースが用意される。100台以上の巨大車両が入り乱れ、数千本のケーブルが道路をのたうちまわる。レースを生中継する各国メイン局の技術陣が周到にセッティングしたのだ。
テレビの裏方である彼らはきっと夜のうちに現地入りして、中継の準備を済ませておくのだろう。午後3時ころにシャワーを浴びたり、ヒゲをそっている姿をよく見かける。そう、このゾーンには仮設シャワーや洗面所もある。木陰や車両の下にビーチチェアを置いて、いびきをかいている連中もいる。
一度、彼らの一人に「レースに興味はないの?」と質問したことがある。答えは明確。
「ないね。これはオレの仕事だからね」と誇りを胸に語っていた。それはそれでプロフェッショナルだ。テレビ画面に登場するキャスターや解説者がゴールに登場するのは、技術陣が一息ついて顔を洗っているころだ。
国際映像を配給するフランステレビジョンのスタッフは少なくとも200人以上。専属コックや皿洗い、数台の食材車が帯同し、大型テントを張り巡らせたテーブル&チェアでスタッフに食事を提供している。
ワインにいたっては木箱で搬入される。フランス人の食事にワインは欠かせないからね。あたりには美味しそうな匂いとワインの芳香が充満。彼らは23日間、こんな生活をしながらフランスを一周していく。
こうして技術陣はレース展開に一喜一憂することもなく、ゴールの瞬間を迎える。生中継が終わり、夜の特番が終わり、表彰台などのゴール地点の撤去が終わってから、ようやく中継車が動かせるようになる。それから夜通しかけて次のゴール地点まで移動。レース中に木陰で寝るしかないよね。
ゴール地点の裏に設置されるゾーンテクニックには中継ケーブルがのたうち回る ©Pressports.com
プロフィール
ライター/山口 和幸 Kazuyuki Yamaguchi
ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」、「シマノ〜世界を制した自転車パーツ〜堺の町工場が世界標準となるまで」(光文社)。