ウイニングポーズは勝者のみに与えられる至福の瞬間
ツール・ド・フランスの基礎知識 #13
ツール・ド・フランス2023の開催期間中、SNSでツール・ド・フランス現地レポートをお届けする、ライターの山口和幸さんのミニコラムをHPにてご紹介します!
今年のテーマは、「ツール・ド・フランスの基礎知識」。星の数ほどある伝説のストーリーから、テレビに映らない舞台裏まで。
現場取材30年の記者が21ステージにわたってコラムを連載します。
長年現地でツール・ド・フランスの取材をしている山口さんならではのコラムをお楽しみください!
Twitterでは山口さんの現地レポートをお届けしていますので、こちらもお楽しみに! https://twitter.com/saitamacrite
ウイニングポーズは勝者のみに与えられる至福の瞬間
ステージ優勝者が見せるウイニングポーズほどカッコいいものはない。大集団によるゴール勝負を制して、ズバッと両手を広げるスプリンター。山岳での独走の果てに歓喜を全身で表すヒルクライマー。トップタイムをたたき出して片手で小さく拳を握るタイムトライアルスペシャリスト。
豪州にロビー・マキュアンというスーパースプリンターがいた。得意のゴール勝負をものにして両腕をバンザイするのだが、そこからが見事だ。ゴールラインから15m離れて並ぶ最前列のカメラマンを通過。その後ろで道路の反対側に並ぶ2列目のカメラマンをやりすごし、さらにその後ろの3列目もガッツポーズを崩さずに通過するのだ。
つまりすべてのカメラマンがウイニングポーズを撮影できるように、両手を離したままの状態でバランスを取ってジグザグに走る。そのガッツポーズが瞬時に全世界に配信されるのを知っているのである。
さまざまな思いが込められたウイニングポーズも見られる。チームメートが事故死したあとのレースでは、両手の人差し指を天に突き立てて祈りを捧げる。両手でゆりかごを揺するしぐさは本人か親しい人に赤ちゃんが誕生したときだ。
2003年のピレネーで初勝利したスペインのカルロス・サストレは、ポケットにしのばせていたおしゃぶりを口にくわえてゴールした。子供が生まれたばかりだったのだ。以来それがトレードマークとなり、ファンクラブのTシャツにはおしゃぶりが描かれた。
史上最多となる7度の山岳王を獲得したフランスのリシャール・ビランクはかなりキザだ。右の人差し指をくちびるに当て、それを高々と掲げる得意のポーズ。プレスセンターのベテラン記者が、「チッ! またこのポーズかよ」と舌打ちするほどだ。
スペインのアルベルト・コンタドールは人差し指をピストルに見立て、自分の胸を軽くたたいてから前方に向かってバーンとやる。「ボクのハートはキミにイチコロさ」とでも言いたげだ。まったくもう、みんなカッコつけやがって。
アルベルト・コンタドールのウイニングポーズ
プロフィール
ライター/山口 和幸 Kazuyuki Yamaguchi
ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」、「シマノ〜世界を制した自転車パーツ〜堺の町工場が世界標準となるまで」(光文社)。