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スタート地点のビラージュこそ社交と文化を担う大会の象徴
ツール・ド・フランスの基礎知識 #14

23/7/15

ツール・ド・フランス2023の開催期間中、SNSでツール・ド・フランス現地レポートをお届けする、ライターの山口和幸さんのミニコラムをHPにてご紹介します!
今年のテーマは、「ツール・ド・フランスの基礎知識」。星の数ほどある伝説のストーリーから、テレビに映らない舞台裏まで。
現場取材30年の記者が21ステージにわたってコラムを連載します。
長年現地でツール・ド・フランスの取材をしている山口さんならではのコラムをお楽しみください!


Twitterでは山口さんの現地レポートをお届けしていますので、こちらもお楽しみに! https://twitter.com/saitamacrite


スタート地点のビラージュこそ社交と文化を担う大会の象徴

各ステージのスタート地点には、選手や関係者が思い思いに時間を過ごすことができる「ビラージュ」という特別のエリアが登場する。いわば「ツール・ド・フランス村」で、IDカードや招待状の代わりに用意されたリストバンドで立ち入りが厳しく制限される。

選手や関係者が宿泊してにぎわうゴールの町と比べると、スタートの町はあっという間にいなくなってしまう。出資する協力金も少額で済むので小さな町や村が多いのだが、せめてもの盛り上げとして用意されたのが「ビラージュ」だ。

ここには地元の行政や経済界有力者、大会スポンサー、取材陣などが招かれ、地元料理などの特産物が振る舞われる。スタート前の選手たちがやってくることもあるが、くつろぐというよりスポンサーへのサービスという意味合いが強い。プロ選手は走っているだけでいいということはなく、スポンサーのために顔を出すことも重要な役目なのだ。

大会協賛各社も個別にブースを構えて、経済界の活動を活発化させる。このあたりが、ツール・ド・フランスはコンペティションであると同時に社交やフランス経済そのものだといわれるゆえんなのである。

出入り口近くには郵便を出すための黄色いポストが置かれるが、これまで投函する人を目撃したことはない。これはいわば伝統なのだろう。特産ワインなどアルコールを振る舞うカウンターもあるが、クルマのハンドルを握らない人だけに用意されたものだ。

ビラージュの裏手には関係者のお弁当配給所などが設置される。トイレもスタート前のラストチャンスで、ゴール地点まで移動する関係者は必ず立ち寄っていく。

スタート時間が近づくと鐘が鳴らされて、ビラージュが閉門されることが告げられる。関係者は急いでクルマに乗り込み、ゴールを目指して走るわけだ。つかの間の会話。それでもツール・ド・フランスにはなくてはならない空間。どんなに競技性が向上しても、フランス人の社交を大切にする伝統だけは変わらない。


スタート地点の一角にフェンスで仕切られたビラージュが設置される

プロフィール

ライター/山口 和幸 Kazuyuki Yamaguchi
ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」、「シマノ〜世界を制した自転車パーツ〜堺の町工場が世界標準となるまで」(光文社)。