レッカー車はツール・ド・フランス車両隊列の頼もしき最後尾
ツール・ド・フランスの基礎知識 #8
ツール・ド・フランス2023の開催期間中、SNSでツール・ド・フランス現地レポートをお届けする、ライターの山口和幸さんのミニコラムをHPにてご紹介します!
今年のテーマは、「ツール・ド・フランスの基礎知識」。星の数ほどある伝説のストーリーから、テレビに映らない舞台裏まで。
現場取材30年の記者が21ステージにわたってコラムを連載します。
長年現地でツール・ド・フランスの取材をしている山口さんならではのコラムをお楽しみください!
Twitterでは山口さんの現地レポートをお届けしていますので、こちらもお楽しみに! https://twitter.com/saitamacrite
レッカー車はツール・ド・フランス車両隊列の頼もしき最後尾
ツール・ド・フランスでは隊列の最後尾に、故障車を乗せるカミオンとレッカー車が走っているが、2000年の取材途中にたいへんお世話になった。ボクのクルマがオイル漏れを起こしたので、最寄りの修理工場まで引っ張っていってもらったのだ。東京中日スポーツのステッカーを貼ったボクのクルマが護送されるところを見ると、彼らの頼もしさにほれぼれするとともに、なぜか涙が出そうだった。点検の結果、「エンジンに亀裂が入っているので修理に数日要する」とのこと。
毎年ボクは外国人としての免税特権で新車を購入し、帰国時に売却する。その差額はレンタカーとほぼ同じだが、保険がフルカバーされること、新車が乗り回せることが魅力。フランスならどんな小さな町にもあるガレージで無料修理してくれる。ただしレンタカーと違うのは、自分名義のクルマなので修理が終わるまで待たなくちゃいけないことだ。
「4日はかかるね」と修理工。レンタカー会社に連絡してあるので、それまで好きなクルマに乗ってくれという。壊れたクルマのフロントガラスからプレスステッカーをはがすしかなかった。ラジオではちょうどエリック・デッケルがアタックしたと伝えていた。
レースは1日200km走るから、4日で800km。約束の日にボクだけ800kmを引き返すことになったとき、「ツールから脱落する」というさみしさがこみ上げた。しかも工場に行ったら「あと1日待ってくれ」と言われるし…。
ボクのクルマを運んでくれたレッカー車の運転手は各ステージのゴール後、オフィシャルの給油所に指定されたガソリンスタンドにいて、関係車両がトラブルを起こしていないかサポートする。こんなスタッフがいるのだから頼もしい限りだ。
そして最終日。選手が到着する前にすべての大会関係車両がシャンゼリゼ大通りを1周だけする。23日間笑顔を振りまき続けたキャラバン隊、設営の大型カミオンや機材車などの裏方たち。みんな「パリに着いた!」という喜びでいっぱいだ。
あのレッカー車もシャンゼリゼを豪快に走ってきた。助手席には女のコ。きっと運転手の娘だろう。交通規制されたシャンゼリゼの石畳を、クラクションを鳴らしながら。
ツールのしんがりを務めるのが故障車を収容するカミオンだ ©Pressports.com
プロフィール
ライター/山口 和幸 Kazuyuki Yamaguchi
ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」、「シマノ〜世界を制した自転車パーツ〜堺の町工場が世界標準となるまで」(光文社)。