ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム

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#12 CHAMPION 2018 アレハンドロ・バルベルデ(後編) 【さいたまクリテリウム歴代覇者ストーリー】

24/7/11

さいたまクリテリウム歴代覇者ストーリー

2024年に第10回大会を迎えるさいたまクリテリウム。これまで大会メインレースで優勝したのは自転車界のスーパースターばかり9選手だ。歴代王者の足跡を知ることで、さいたまクリテリウムの持つ価値観を再確認してみよう。(文/山口和幸)

Xでは山口さんの現地レポートをお届けしていますので、こちらもお楽しみに!
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CHAMPION 2018 アレハンドロ・バルベルデ

さいたまを制した虹色の世界チャンピオン(後編)

バルベルデはいわゆるパンチャーという脚質で、勝負どころで一気に仕掛けてライバルを引き離し、ゴールまで全力で駆け抜けてステージ優勝をもぎ取るタイプだ。そのため起伏に富むワンデーレースが得意で、そうやって量産した勝利の累積で世界ランキングの頂点に君臨してきた。

つまり23日間のステージレースで総合優勝を争うタイプとは違ったスタイルを持つ。そうはいってもこれだけのビッグネームだけに、ツール・ド・フランスでの総合優勝をスペインのマスコミやファンは期待してしまうのだ。ところがバルベルデはいつものことながら落車でチャンスを失っていく。

2008ツール・ド・フランスはいきなり初日から集団スタートのロードレースだった。初日は個人タイムトライアルではなく、距離197.5kmを走るレースに設定された。これは41年ぶりのことで、改革に力を尽くす主催者の意思表示だった。そして第1ステージのゴール手前が上りだったこともあって、バルベルデは得意の一発アタックであっという間に集団から抜け出して第1ステージを制覇。「ステージ勝利」と「マイヨジョーヌ」という2つの目標をかなえてしまった。

「この大会の目標は2つある。ステージ優勝することと、マイヨジョーヌを着ること。それが初日で実現するとは。ボクを助けてくれた人たちのみならず、すべての自転車ファンに感謝したい」とバルベルデは語っている。

しかし第3ステージでマイヨジョーヌを手渡してしまい、ピレネーのツールマレー峠で苦戦し、総合優勝には絡めなかった。

ツール・ド・フランスさいたまクリテリウムに参戦し、メインレースで優勝することになる2018年は、プロ生活20年の中でその晩年ながらピークのシーズンとなった。最優秀自転車選手として「ベロドール」を初めて受賞し、そして38歳で世界選手権ロードを初めて制したからだ。

オーストリアのチロル地方にあるインスブルックで開催された世界選手権ロードは最終日となる9月30日、エリート男子ロードが行われ、38歳のバルベルデが4人のゴール勝負を制して初優勝。2位はフランスのロマン・バルデ、3位はカナダのマイケル・ウッズ、4位はオランダのトム・デュムランだった。

バルベルデはこれまでの世界選手権で2003年と2005年に2位、2006・2012・2013・2014年に3位と6回も表彰台に上りながら世界チャンピオンの称号である5色の虹色ジャージ「アルカンシエル」まであと一歩だった。最終周回の激坂でバルデとウッズとともに抜け出したバルベルデは、ゴール手前でデュムランに追いつかれ、4人のゴールスプリント勝負となったが、この中では最も爆発力を持つバルベルデがトップフィニッシュすることになる。

これまでの最年長優勝者は38歳8カ月29日のヨープ・ズートメルク(オランダ)で、38歳5カ月10日のバルベルデは歴代2位。大会4連覇を目指したスロベニアのペーター・サガンはレース中盤に遅れてリタイアしていた。

「世界選手権とツール・ド・フランスで優勝することが夢だった。ツール・ド・フランスはうまくいかなかったが、ボクはついに世界チャンピオンになった。レースに勝った後に叫んだのは初めてじゃないけど、虹色のジャージを手に入れることができなくて何度も落胆したので、これまでで一番感情的になってしまった」とバルベルデ。

「気象状況、チーム戦略、レース展開。すべて私にとって絶好のものとなり、今日の夢を実現する要因になった。チロルの幻想的な群衆もモチベーションとなった。大勢の熱狂的な観客のなかで走るのは本当に感動的だった。これまでの世界チャンピオンのなかで2番目に年長者だと聞いたけど、年長サイクリストだって勝つことができることを証明できたね」とイタズラっぽく笑った。

2022シーズンを最後に現役生活にピリオドを打ったバルベルデは、さいたまクリテリウムが引退レースとなり、そのセレモニーで感慨深い表情を浮かべていた。


2019ツール・ド・フランス ©A.S.O. Alex BROADWAY


野球は初体験 ©Yuzuru SUNADA


さいたまも制した ©Yuzuru SUNADA

プロフィール

アレハンドロ・バルベルデ

●国籍:スペイン
●生年月日:1980年4月25日
●所属チーム:モビスター(2018)
●現況:引退
【主な戦歴】
●ツール・ド・フランス区間通算4勝(2005,2008,2012)
●リエージュ~バストーニュ~リエージュ優勝4回(2006,2008,2015,2017)
●ツール・ド・フランス マイヨジョーヌ着用(2日)(2008)
●ブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝(2009)
●ツール・ド・フランス総合3位(2015)
●世界選手権 ロードレース優勝(2018)
●ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム優勝(2018)


ライター/山口 和幸 Kazuyuki Yamaguchi
ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」、「シマノ〜世界を制した自転車パーツ〜堺の町工場が世界標準となるまで」(光文社)。
ダイヤモンド・オンラインにて「ツール・ド・フランス2024」現地レポートを連載中。 https://diamond.jp/articles/-/346280