ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム

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#13 CHAMPION 2015 ジョン・デゲンコルプ(前編) 【さいたまクリテリウム歴代覇者ストーリー】

24/7/12

さいたまクリテリウム歴代覇者ストーリー

2024年に第10回大会を迎えるさいたまクリテリウム。これまで大会メインレースで優勝したのは自転車界のスーパースターばかり9選手だ。歴代王者の足跡を知ることで、さいたまクリテリウムの持つ価値観を再確認してみよう。(文/山口和幸)

Xでは山口さんの現地レポートをお届けしていますので、こちらもお楽しみに!
https://x.com/saitamacrite


CHAMPION 2015 ジョン・デゲンコルプ

北の地獄を制したタフガイ(前編)

「なんてこった!2024年の開幕初日で2つの目標を同時にかなえてしまうとは夢にも思わなかった。完ぺきなチームワークだった。暑さの中での戦い、そして残り50kmを攻めてステージ優勝とマイヨジョーヌ。明日はハードでチャレンジングなステージになると思うけど、笑顔で乗る」

DSMフィルメニッヒポストNLのジョン・デゲンコルプが興奮気味に話した。チームエースのロマン・バルデ(フランス)とフランク・ファンデンブルーク(オランダ)の2人逃げが成功し、バルデが先を譲られてステージ優勝。総合成績でバルデがマイヨジョーヌを獲得したのみならず、中間スプリントでポイントを取ったファンデンブルークがポイント賞のマイヨベールを手にしたのだ。

デゲンコルプにもうステージ勝利のチャンスはないかもしれない。それならばキャプテンとしてチームを力強く牽引していきたい。ツール・ド・フランス出場10回の大ベテランは第111回大会をだれよりも楽しんでいた。

ランフェルドノール(北の地獄)と呼ばれる、北フランスの伝統レースがある。パリ〜ルーベ。長い歳月で風化し、めくれあがったパベ(石畳)の道をパンクも落車も恐れずに時速40km超で突っ走る。そんな悪路を断続的に走る過酷すぎるレースは、随所で痛すぎるシーンが演じられる。

それにしても欧州の自転車ファンは残酷だ。「路面の悪さは沿道の観客の数で判断できる」と選手が言うほど、アクシデントを目撃するために沿道に集まる。舞台はナポレオン統治以前に敷設された古い石畳で、第一次世界大戦で爆撃されて修復した部分もある。そんな歴史的建造物は、ふだんは農作業の車両しか利用していないという。

石畳の道はクルマ1台分の幅しかなく、レース中に進入できる四輪車両は著しく制限され、チームのサポートカーもこの区間は迂回を余儀なくされる。各チームは石畳区間の要所に交換車輪を持ったスタッフを待機させる。だから機材故障した選手はどんな状態であってもスタッフのところまで走らなければならない。コース終盤にある石畳の道を縫い合わせるように走った選手はホコリだらけ、天気が悪ければ泥だらけになって、最後はルーベの旧自転車競技場にゴールする。

北の地獄を2015年に初制覇したのがジョン・デゲンコルプだ。その年のさいたまクリテリウムにも参加した。ツール・ド・フランスではステージ2位が7回もあったが、2018年に悲願の初優勝を遂げることになる。コースは奇しくもパリ〜ルーベの石畳区間が採用されていた。

デゲンコルプの名前が知れ渡ったのは2012ブエルタ・ア・エスパーニャだ。23歳のときだった。所属していたアルゴス・シマノは格下カテゴリーのチームで、日本の土井雪広もその大会に参加していた。第2ステージでデゲンコルプが大集団によるゴールスプリントを制して、グランツールと呼ばれる三大大会で初優勝した。土井はゴール勝負に備えて残り5kmからチームの隊列を大集団の前方に引き連れる役目をこなした。

「上り基調のゴールはボクにピッタリで、チームメートの牽引もあって最後のスパートが生かせる位置で勝負することができた」とデゲンコルプ。その勝利がきっかけとなって有力スプリンターとして注目され、その後の平たん区間でも勝利を狙っていく。そのため土井はアシスト役としてデゲンコルプのために走っていくことになった。

第5ステージで2勝目。ポイント賞でもトップに立ったデゲンコルプは、「三大大会でポイント賞を獲得することがボクの夢だ」としながらも、その年は最後までリーダージャージを守ることはできなかった。

第7ステージ。土井も大集団のゴール勝負に持ち込めるように集団のペースをコントロールする働きをみせ、デゲンコルプが3勝目。
「格下チームのボクたちは主催者推薦で出場することができた。ボクはこのレースに集中するためにツール・ド・フランスを欠場して乗り込んだのだから、3勝を量産できてホッとしている」と安堵の表情。さらに第10ステージと最終ステージも勝って通算5勝。

後編は明日公開!お楽しみに!



2015ツール・ド・フランス © A.S.O. B.Bade


2018年にツール・ド・フランス区間優勝を飾った ©A.S.O. Alex BROADWAY

プロフィール

ジョン・デゲンコルプ

●国籍:ドイツ
●生年月日:1989年1月7日
●所属チーム:ジャイアント・アルペシン(2015)
●現況:DSMフィルメニッヒポストNL所属選手
【主な戦歴】
●ブエルタ・ア・エスパーニャ区間5勝(2012)
●ブエルタ・ア・エスパーニャ ポイント賞(2014)
●ブエルタ・ア・エスパーニャ区間4勝(2014)
●ミラノ〜サンレモ優勝(2015)
●パリ〜ルーベ優勝(2015)
●ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム優勝(2015)
●ツール・ド・フランス第18ステージ優勝(2018)


ライター/山口 和幸 Kazuyuki Yamaguchi
ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」、「シマノ〜世界を制した自転車パーツ〜堺の町工場が世界標準となるまで」(光文社)。
ダイヤモンド・オンラインにて「ツール・ド・フランス2024」現地レポートを連載中。 https://diamond.jp/articles/-/346280