ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム

NEWS & TOPICSお知らせ

#20 CHAMPION 2019 新城幸也(前編) 【さいたまクリテリウム歴代覇者ストーリー】

24/7/20

さいたまクリテリウム歴代覇者ストーリー

2024年に第10回大会を迎えるさいたまクリテリウム。これまで大会メインレースで優勝したのは自転車界のスーパースターばかり9選手だ。歴代王者の足跡を知ることで、さいたまクリテリウムの持つ価値観を再確認してみよう。(文/山口和幸)

Xでは山口さんの現地レポートをお届けしていますので、こちらもお楽しみに!
https://x.com/saitamacrite


CHAMPION 2019 新城幸也

グランツール出場16回にして全完走(前編)

地中海のコートダジュール(空色の海岸)にあって、南を海に、その他三方をフランスに囲まれた小さな国がある。モナコ公国だ。ハーバーには想像を絶する豪華さを見せつけるプレジャーボートが並び、世界のリッチが所有するレジデンスが南を向いた雛壇にある。年に一度はその公道がF1サーキットとなる。2009年にツール・ド・フランスの開幕都市となったとき、モナコ駐日大使にモナコを訪れる旨を伝えると、「フランスのニースに宿を取って、ヘリコプターで移動したほうが安いよ」とアドバイスをもらった記憶もある。

それ以来となるモナコ。今回もホテルは国境を越えたニースなのだが、ツール・ド・フランス最後の2日間の舞台となるだけに、価格が急騰している全ホテルが予約で埋まっている。ニース観光局に宿泊依頼しているが、「ごめんなさい。ホテル取れない!」と泣きを入れてくるツール・ド・フランス終盤戦。

モナコに来ると新城幸也のあの言葉を思い出す。

「あー、やらかしちまった!」

日本勢がツール・ド・フランスに出場したのはのべ11回、わずか4人だ。1996年に今中大介がプロ選手として初参加したことで話題となったのだが、大会期間中に過去の歴史をさかのぼると日本選手が出場していたことが判明した。じつは1927、28年にパリ在住のキソウ・カワムロ(川室競)が参加している。とはいっても競技として確立されていない時代で、飛び込み参加もありだったようだ。同選手は2年とも初日で途中リタイアしている。

今中の参戦後は13年もの空白の時代が続いたが、2009年に別府史之と新城幸也がダブル出場を果たした。その開幕地がモナコだった。

圧巻は7月5日の大会2日目。モナコのハーバーをスタートする第2ステージだ。開幕初日は個人タイムトライアルだったため、この日が通常形式のロードレース初日だった。そんな状況で、しかも初出場の新城がいきなり5位をゲットした。ゴールの瞬間に口をついて出てきた言葉は、「あー、やらかしちまった!」。千載一遇のチャンスを逃してしまったと言う意味で、満足のかけらさえなかった。後述するが新城はその後のツール・ド・フランスで日本自転車界不滅の記録を書き記していくが、ステージ成績としてはこのときの5位がいまもなお日本勢の歴代最高位である。

こうして新城は、別府とともに日本勢初の完走を遂げることになるが、「3週間のレースを完走できてよかったとは思うが、積極的な動きをすることができず、悔しい気持ちも強い」というのが本音だった。

「3週間は長くてツラいだろうなあと思いこみすぎていたのか。実際のところはいつものレースと同じで、あっという間だった。走り続けてきたので、明日もレースがある感じ。レース終了後にシャンゼリゼをパレードして、ようやくこの大会が終わったことを実感した」

2010年も新城は連続出場し、「昨年の経験があるので、23日間のペース配分がわかっていることが強み。アルプスやピレネーといった厳しい山岳コースも昨年よりも楽に上れるようになった」と完走している。しかし2011年、アジア選手権を制したにもかかわらず新城は地元開幕のツール・ド・フランスでメンバー落ちした。一番悔しい思いをしたのは新城自身。それをバネに飛躍を続けていく。

後編は明日公開!お楽しみに!



2009年にツール・ド・フランス初出場 ©A.S.O. Bruno Bade


さいたま市内交流会で鷹匠となる ©Yuzuru SUNADA


2017ツール・ド・フランス ©A.S.O.

プロフィール

新城幸也

●国籍:日本
●生年月日:1984年9月22日
●所属チーム:バーレーン・メリダ(2019)
●現況:バーレーン・ヴィクトリアス所属選手
【主な戦歴】
●ツール・ド・フランス7回出場・全完走
●ジロ・デ・イタリア5回出場・全完走
●ブエルタ・ア・エスパーニャ4回出場・全完走
●ツール・ド・フランス第4ステージ敢闘賞(2012)
●ツール・ド・フランス第6ステージ敢闘賞(2016)
●ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム優勝(2019)


ライター/山口 和幸 Kazuyuki Yamaguchi
ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」、「シマノ〜世界を制した自転車パーツ〜堺の町工場が世界標準となるまで」(光文社)。
ダイヤモンド・オンラインにて「ツール・ド・フランス2024」現地レポートを連載中。 https://diamond.jp/articles/-/346280