ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム

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#18 CHAMPION 2023 タデイ・ポガチャル(後編) 【さいたまクリテリウム歴代覇者ストーリー】

24/7/18

さいたまクリテリウム歴代覇者ストーリー

2024年に第10回大会を迎えるさいたまクリテリウム。これまで大会メインレースで優勝したのは自転車界のスーパースターばかり9選手だ。歴代王者の足跡を知ることで、さいたまクリテリウムの持つ価値観を再確認してみよう。(文/山口和幸)

Xでは山口さんの現地レポートをお届けしていますので、こちらもお楽しみに!
https://x.com/saitamacrite


CHAMPION 2023 タデイ・ポガチャル

自転車競技史上最強の霊長類、いや宇宙人(後編)

2019ブエルタ・ア・エスパーニャの第9ステージ。ピレネー山中の小国アンドラで開催されたレースは雷雨に見舞われる厳しい闘いとなったが、ポガチャルが有力選手の集団から抜け出して初優勝する。この大会最年少の20歳が三大ステージレース初優勝を遂げた日だった。

「天気予報で雨が降ると聞いてこのステージを狙っていた。自分にとってはそれがチャンスで、計画通りに勝利をつかむことができてうれしい」とポガチャル。

さらに第13ステージ、峠の頂上にゴールが設定されている難関区間で首位ログリッチとポガチャルのスロベニア勢が抜け出した。最後はポガチャルが先着して、第9ステージに続く2勝目を挙げた。タイム差なしの2位になったログリッチはライバル選手との差をさらに広げ、ここで総合優勝に一歩前進した。

「この日はリタイアすることなく生き残ろうと思っていた。まさか最後にこんな調子がよくなるなんて思わなかった」とメジャー初出場にして2勝目を挙げたポガチャル。総合成績で前日の5位から3位に浮上。さらに新人賞でトップに躍り出て純白のリーダージャージを獲得した。

大会最後の山岳となった第20ステージでもポガチャルが独走を決めて、第9、13ステージに続く大会3勝目を挙げた。翌日の最終日は平たん区間なので、ログリッチの初優勝もここで決まった。

「多くのスロベニアファンがボクに声援を送ってくれた」とポガチャル。
「区間3勝を挙げ、最終日の表彰台にスゴい選手たちと立てるなんて夢のようだった」

スロベニアはかつての社会主義国、ユーゴスラビアから1991年に独立した小国だ。しかし自転車界では一気に強豪国に。それをけん引するのがポガチャルだ。近年の自転車レースは高速化と専門性が顕著になり、1日レースで優勝を狙うタイプと2日以上の大会日程で総合優勝を争うタイプに分けられてきた。ツール・ド・フランスのように23日間の長丁場で頂点を狙うなら1日レースは視野に入れず調整することが常套手段となった。

23日間の長丁場で表彰台に立てるポガチャルはまさに後者のタイプと思われていた。グランツールは出場6回で総合優勝3回。他の3回も全て3位までの表彰台に乗っている。ところが2021年、ポガチャルは1日レースの伝統大会、春のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ(ベルギー)、秋のイル・ロンバルディア(イタリア)で優勝。近年の傾向を完全に打ち破る成績を収めた。

1日レースでも複数日レースでも暴れまくったのがかつてのメルクスだ。ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスで総合優勝5回、1日レースの最高峰である世界選手権で優勝4回。春先に開催される伝統の1日レースも総ナメにして、その強さから「人食い鬼」とさえ呼ばれた。これまでメルクスは「自らと並び立つ現役選手は?」の問いに答えなかったが、イル・ロンバルディアの優勝後にポガチャルの名前を口にした。

そのコメントはポガチャル自身の耳にも入り、「彼がそう言うならボクは自転車競技の新たな歴史を作れるように頑張る」とさらに積極性を高めた。

ツール・ド・フランス最多となる5勝を記録した選手は過去に4人いるが、5勝目はいずれも30歳前後。今回そのまま総合優勝すれば25歳で3勝を挙げることになる。ポガチャルにはまだ相当の時間がある。メルクスを超える最強選手となるのか? 人喰い鬼を超えるあだ名はあるのか? 欧州各紙はたまにポガチャルのことを宇宙人と見出しに書き立てることがある。


2022ツール・ド・フランス ©A.S.O. Charly Lopez


2023ツール・ド・フランス ©A.S.O. Charly Lopez


2023さいたまで書道 ©A.S.O. Thomas Maheux

プロフィール

タデイ・ポガチャル

●国籍:スロベニア
●生年月日:1998年9月21日
●所属チーム:UAEチームエミレーツ(2023)
●現況:UAEチームエミレーツ所属選手
【主な戦歴】
●ツール・ド・フランス総合優勝(2020,2021)
●ツール・ド・フランス区間通算14勝(2020,2021,2022,2023,2024)※第15ステージ終了時点
●ツール・ド・フランス 山岳賞2回
●ツール・ド・フランス 新人賞4回
●ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム優勝(2023)
●ジロ・デ・イタリア総合優勝(2024)


ライター/山口 和幸 Kazuyuki Yamaguchi
ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」、「シマノ〜世界を制した自転車パーツ〜堺の町工場が世界標準となるまで」(光文社)。
ダイヤモンド・オンラインにて「ツール・ド・フランス2024」現地レポートを連載中。 https://diamond.jp/articles/-/346280