ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム

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#4 CHAMPION 2014 マルセル・キッテル(後編)【さいたまクリテリウム歴代覇者ストーリー】

24/7/2

さいたまクリテリウム歴代覇者ストーリー

2024年に第10回大会を迎えるさいたまクリテリウム。これまで大会メインレースで優勝したのは自転車界のスーパースターばかり9選手だ。歴代王者の足跡を知ることで、さいたまクリテリウムの持つ価値観を再確認してみよう。(文/山口和幸)

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CHAMPION 2014 マルセル・キッテル

押しも押されぬ親善大使は女性ファンの推し(後編)

自転車選手である限り、夢はたった1日でもいいからマイヨジョーヌを着ること。2024ツール・ド・フランスでは今回の大会が最後となる33歳のロマン・バルデ(フランス)が第1ステージで優勝。そのまま総合1位になり、マイヨジョーヌを手中にした。第1ステージでトップになれば夢が叶う。キッテルもあの時、そう思っていたはずだ。

2013ツール・ド・フランスでのセンセーショナルな登場シーンを振り返ってみよう。アルゴス・シマノのアシスト役として参加したキッテルは初日のスプリント合戦を制したことで、総合成績でも首位に立ち、マイヨジョーヌを着用することになった。

「1着でゴールすればそのままマイヨジョーヌが獲得できる。だからゴール前の混戦はとてもナーバスだった」とキッテルは語っていたが、じつは多くのスプリンターが最後の勝負に絡めなかった。

最有力のマーク・カヴェンディッシュ、ペーター・サガンが落車に巻き込まれて脱落。アンドレ・グライペルもパンクして、この時点で3強がいなくなった。しかもスーパースプリンターとして期待されるキッテルのチームメート、ジョン・デゲンコルプも遅れた。キッテルとしては願ってもないチャンスで、少人数のスプリント勝負を接戦で制したのだ。

「初日のスプリントで勝つことができて、どれほどうれしいことだろうか。でも本当の勝負はこれからだ。できればカヴェンディッシュやグライペルと正々堂々と渡り合って区間勝利をもぎ取りたい」とキッテルは殊勝にもこうつけ加えた。

翌ステージはいきなり標高1,000m超えの山岳が待ち構え、キッテルがマイヨジョーヌを死守するのは至難のわざだった。それでもたった1日ではあるがマイヨジョーヌを着用して示した存在感は絶大。第100回大会の初日で獲得したこの黄色いジャージはキッテルにとって一生の勲章となった。

キッテルは2023年、さいたま市立浦和中学校を訪れ、全校生徒240人の前で授業を行った。「日本食はトンカツが大好き」と打ち明けたキッテルだが、ライバルを圧倒する爆発力を鍛え上げるには並々ならぬ努力があったことを話した。

キッテルが得意とするのはゴールのスプリント勝負だ。接触して大怪我する可能性も高いので緊張する。それをどう克服したのか? 回答は日本の中学生にとってどんな困難に遭遇したときも光明を見出す糸口となった。

「緊張したときはまず落ち着くこと。困難だってエンジョイする思考回路が活路を見出す。すべてをポジティブに考えることだね」

ロードレースを始めたのは12歳の時だったという。最初は「退屈でいやだなあ」と感じることもあったという。それでも友だちと一緒に走っているうちに楽しい部分を見つけ出した。

「いつかツール・ド・フランスに出場したい。そんなことは夢物語で、実現できないだろうなとおぼろげながら感じたこともある。でも夢はあきらめたら終わり。まずその日の練習に集中した」

21歳でプロになった。次の目標はモチベーションを保つことだ。途切れたらツール・ド・フランス出場もステージ優勝も夢と消える。5〜10年先の目標に近づける努力を始めた。好きで選択した仕事で夢を叶えるためには必死になるしかない。

「プロ選手生活は日々のルーティーンをこなすことが求められた。それは大変なことだった。すべてがチャレンジだった。でもそんな経験があるから、アスリートとしてだけでなく人間としても成長できたと思う」

「世界中のレースを転戦できるのはとても楽しい。美しいシーンも目撃できる。アルプスは美しいけど地獄だよね。大好きな日本にも何回も来ることができた。日本でボクの話を聞いてくれる中学生も困難な時期が必ず来るはずだけど、頑張って、そして人生を楽しんでほしい」


2016ツール・ド・フランス ©A.S.O. A.Broadway


2017ツール・ド・フランス ©A.S.O. A.Broadway


中学生を対象に特別授業 ©Pressports.com

プロフィール

マルセル・キッテル

●国籍:ドイツ
●生年月日:1988年5月11日
●所属チーム:ジャイアント・シマノ(2014)
●現況:引退。さいたまクリテリウム・アンバサダー(2019,2022,2023)
【主な戦歴】
●ツール・ド・フランス区間通算14勝(2013,2014,2016,2017)
●ツール・ド・フランス マイヨジョーヌ着用(1日)(2013,2014)
●ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム優勝(2014)


ライター/山口 和幸 Kazuyuki Yamaguchi
ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」、「シマノ〜世界を制した自転車パーツ〜堺の町工場が世界標準となるまで」(光文社)。