ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム

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#6 CHAMPION 2016 ペーター・サガン(前編)【さいたまクリテリウム歴代覇者ストーリー】

24/7/4

さいたまクリテリウム歴代覇者ストーリー

2024年に第10回大会を迎えるさいたまクリテリウム。これまで大会メインレースで優勝したのは自転車界のスーパースターばかり9選手だ。歴代王者の足跡を知ることで、さいたまクリテリウムの持つ価値観を再確認してみよう。(文/山口和幸)

Xでは山口さんの現地レポートをお届けしていますので、こちらもお楽しみに!
https://x.com/saitamacrite


CHAMPION 2016 ペーター・サガン

世界選手権3連覇、神出鬼没の異端児(前編)

1980年ごろまでツール・ド・フランスは西欧選手ばかりが参加していた。そんなレースにオーストラリアのフィル・アンダーソンや米国のグレッグ・レモンが登場し、徐々に国際化していく。2024ツール・ド・フランス開幕から3日間で、スロベニアのタデイ・ポガチャルが一時的に首位になり、エリトリアのビニヤム・ギルマイが区間勝利し、エクアドルのリチャル・カラパスがマイヨジョーヌを奪った。

スロバキアという国からやってきたペーター・サガンもツール・ド・フランスの一時代に印象的な足跡を残した選手だった。

日本の自転車ファンは優等生的なクリストファー・フルームやマルセル・キッテルも大好きだが、サガン推しもそれ以上に存在する。プロフェッショナルとしてのあくなきファンサービス精神。ゆえにハメを外しすぎてしまうこともあった。

それと同時に世界選手権ロード3連覇という実力者。もともとはMTB出身で、自転車の操作技術はハンパない。さらに加えて身体パフォーマンスの高さも異次元で、どんなスポーツをしても一流になれただろうなと容易に想像できる。

サガンはリクイガス・キャノンデール時代の2012年、ツール・ド・フランスに初出場し、大会2日目の第1ステージでいきなり優勝(この年は初日にプロローグと呼ばれる距離の短い個人タイムトライアルがあった)。初めて脚光を浴びたのだが、第6ステージまでに3勝を挙げ、全日程が終わってみれば自身1回目のポイント賞を獲得している。

2012年はベルギーで開幕した大会だった。スロバキアのナショナルチャンピオンジャージを着用したサガンはまだ無名に近い存在だった。初日にプロローグが行われ、大会2日目はベルギー・アルデンヌ地方特有の起伏のあるコースが舞台となった。全日程の中では平たんステージとして区分されていたが、波状的なアップダウンが選手の脚の筋肉に乳酸をため込ませ、ペダリングする力を奪っていくという、ハードなコース。サガンはこんな状況が得意だった。

スタート直後に逃げた6人は残り8kmで吸収されていた。スーパースプリンターのマーク・カヴェンディッシュがたまらず大集団を脱落したほど、この日のアップダウンは厳しかった。スプリンターが活躍できる舞台ではなかったのだ。

ベルギーファン期待の選手は、急坂でアタックを仕掛けてそのままゴールまで逃げ切る勝ちパターンを持つフィリップ・ジルベール。ところが22歳で、初出場らしからぬ冷静さを備えたサガンがゴール前で飛び出し、初勝利を射止めた。

さらにサガンは翌日にポイント賞のマイヨベールを獲得。そして4日目には区間2勝目を挙げた。
「区間2勝はうれしいが、ボクにはもっと大きな目標がある。それはこの緑色のジャージ、マイヨベールを最終日のパリまで守ることなんだ」

その後の戦いは中間スプリントポイントでの得点獲得も視野に入れて、ポイント賞で逆転を許さない走りに徹した。
「つまり3勝目は狙わないのか?」と記者が質問すると、「まずはポイント賞争いを優先する。でもそうすることでボクはもっと勝てると思う」
その言葉どおり第6ステージで3勝目。そしてパリまで一度もマイヨベールを譲ることなく、初めてのポイント賞を獲得した。

後編は明日公開!お楽しみに!



ノルマンディー上陸作戦の地で開幕セレモニーに登場 ©A.S.O. Alex BROADWAY


これぞサガン ©A.S.O. Pauline Ballet

プロフィール

ペーター・サガン

●国籍:スロバキア
●生年月日:1990年1月26日
●所属チーム:ティンコフ(2016)
●現況:ピエール・バゲットサイクリング所属選手
【主な戦歴】
●ツール・ド・フランス ポイント賞7回獲得(単独最多記録)
●ツール・ド・フランス区間通算12勝(2012,2013,2016-2019)
●世界選手権 ロードレース優勝3回(2015-2017)
●ツール・ド・フランス マイヨジョーヌ着用(3日)(2016)
●ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム優勝(2016)
●ツール・ド・フランス マイヨジョーヌ着用(1日)(2018)


ライター/山口 和幸 Kazuyuki Yamaguchi
ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」、「シマノ〜世界を制した自転車パーツ〜堺の町工場が世界標準となるまで」(光文社)。