ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム

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#2 CHAMPION 2013 クリストファー・フルーム(後編)【さいたまクリテリウム歴代覇者ストーリー】

24/6/30

さいたまクリテリウム歴代覇者ストーリー

2024年に第10回大会を迎えるさいたまクリテリウム。これまで大会メインレースで優勝したのは自転車界のスーパースターばかり9選手だ。歴代王者の足跡を知ることで、さいたまクリテリウムの持つ価値観を再確認してみよう。(文/山口和幸)

Xでは山口さんの現地レポートをお届けしていますので、こちらもお楽しみに!
https://x.com/saitamacrite


CHAMPION 2013 クリストファー・フルーム

ムッシュー!さいたまクリテリウム(後編)

ロードバイクにまたがるとその性格の一端がかいま見られる。2012年はスカイチームでブラッドリー・ウィギンスのアシスト役だったが、遅れがちなウィギンスを振り返りながら「ついてこられないの?」とばかりの表情。さらに「早く来いよ!」という手振りまで見せつけた。ゴールした後は、そんな傍若無人な振る舞いを反省するかのように、優等生に立ち返った。

パニックを起こしても人にあたったり、ものにあたったりしない。機材故障時に自転車を投げつける選手は多いが、フルームは愛車をキズつけることなく路面に横たえる。悪魔が棲む山と言われるプロバンスのモンバントゥーで自転車のフレームが折れた時も、随行オートバイに自転車を立てかけ、スペアバイクが到着するまで少しでもゴールに近づこうと「ランニング」で走り続けたシーンもあった。

フルームの実績からするともっと世界中から愛されてもいいと思うのだが、元来の真面目さがあって、そんな人間がツール・ド・フランスで総合優勝するポテンシャルを持ってしまい、独特な人間性が育まれたとしか言いようがない。

連覇に挑んだ2014年のツール・ド・フランスは大会4日目にアクシデントが発生した。フルームは第4ステージで落車して、右手首を痛めたが、激痛は押し隠した。翌日は「北の地獄」と呼ばれる石畳区間が待ち構えていた。石畳はレース後半に設定されていたが、右手首を痛めていたフルームは雨に濡れた前半の舗装路で2度も落車。ついに手首を骨折してリタイアした。

「2度目の落車をしたときに、もう走れないと悟り、悲しい気持ちでいっぱいになった」

しかしマイヨジョーヌへの執念はついえなかった。2015年に栄冠を奪還。2016、2017年も総合優勝。ツール・ド・フランスの歴代最多優勝は5回で歴史上の英雄ばかり4選手がタイ記録で並ぶが、フルームはわずかに1つ及ばずながら歴代単独5位となる4勝をマークすることになる。

さらにブエルタ・ア・エスパーニャ(2011、2017)、ジロ・デ・イタリア(2018)を加えてグランツールと呼ばれる三大大会全制覇。そんな実績を誇るが、さいたまでは市内中学校でゲスト講師を務めたり、文化交流に積極的に参加したりとだれよりも来日を楽しむ姿が特徴的だ。

作詞・作曲・音楽プロデューサーとしてアニメやゲームの劇中伴奏音楽からNHK看板番組のテーマ曲まで担当する梶浦由記さんはフルームの大ファンで、かつて東京中日スポーツの取材で熱く語っている。

「鉄の精神力と鉄の自制心。負けず嫌いで悔しいはずなのに、負けたときは言い訳もせずに勝者を称える。ジェントルマンのふりをしたオオカミ。わりと日本人好みで、そんなところがカッコいい!」と梶浦さん。

「おとな的な見方をすると、人々の支持を得るためにジェントルマンを脱げないのかな。そんなところに親近感を感じます。日本人もきちんとすることで好感度を上げようとする。とても共感できるのでそんな部分も彼が好きなところです」

そんなフルーム! 2024年11月もさいたまで会えるかな?


2017年にツール・ド・フランス4勝目 ©A.S.O.


2013年に相撲部に入門。右から2人目は高校生時代の大関貴景勝 ©Yuzuru SUNADA


2017年にプランシュデベルフィーユでステージ優勝 ©A.S.O.

プロフィール

クリストファー・フルーム

●国籍:英国
●生年月日:1985年5月20日
●所属チーム:チームスカイ(2013)
●現況:イスラエル・プレミアテック所属選手
【主な戦歴】
●ツール・ド・フランス総合優勝(2013,2015-2017)
●ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム優勝(2013)
●ブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝(2011,2017)
●ジロ・デ・イタリア総合優勝(2018)


ライター/山口 和幸 Kazuyuki Yamaguchi
ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」、「シマノ〜世界を制した自転車パーツ〜堺の町工場が世界標準となるまで」(光文社)。