ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム

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#9 CHAMPION 2017 マーク・カヴェンディッシュ(後編) 【さいたまクリテリウム歴代覇者ストーリー】

24/7/7

さいたまクリテリウム歴代覇者ストーリー

2024年に第10回大会を迎えるさいたまクリテリウム。これまで大会メインレースで優勝したのは自転車界のスーパースターばかり9選手だ。歴代王者の足跡を知ることで、さいたまクリテリウムの持つ価値観を再確認してみよう。(文/山口和幸)

Xでは山口さんの現地レポートをお届けしていますので、こちらもお楽しみに!
https://x.com/saitamacrite


CHAMPION 2017 マーク・カヴェンディッシュ

大会最多のステージ35勝を達成! メルクスを超えた!(後編)

ところがカヴェンディッシュは2016年第14ステージの30勝目から5年間勝てなかった。チームを転々としたが、発射台となるアシスト勢に恵まれなかった。たび重なる落車骨折と、その5年は感染症にも悩み、成績不振でうつ病も発症。「マン島超特急ももう終わりだね」と言われた。

2017ツール・ド・フランスに出場したこともメルクスの記録更新に挑むためだった。ところが第4ステージでチャレンジは寸断された。最後のゴールスプリント勝負で世界チャンピオンのペーター・サガン(スロバキア)の危険走行により地面にたたきつけられた。サガンは失格となるのだが、骨折したカヴェンディッシュもリタイアを余儀なくされた。 「あのときの落車の影響は身体の数カ所にある。残りの人生も不具合を感じない日はないと思う」

年齢的にそのままキャリアを終える可能性もあったが、カヴェンディッシュはリハビリに打ち込み、レース復帰を目指した。11月のツール・ド・フランスさいたまクリテリウムには笑顔で来日し、持ち前のスプリント力を日本のファンに披露して優勝した。

2021年、契約金はいくらでもいいと移籍したチームで、優秀なアシスト陣を得てかつての勝ちパターンを再設定する。残り150mまでチームメートに牽引されれば、最後のスプリント勝利で負けることはない脚力を取り戻した。ツール・ド・フランスの第4ステージで5年ぶりに勝つと、第6、10、13ステージと勝ち星を重ねた。ゴール後はそれぞれのチームメートの母国語を使って感謝の言葉を送った。

上り坂が苦手で、山岳ステージではチームメートに牽引されて連日制限時間ギリギリでゴールする。そんなカヴェンディッシュが2021年の第11ステージで思わぬ行動を取った。この日は1970年の大会で英国の元世界チャンピオン、トム・シンプソンが昏倒して急死したモンバントゥーがコースだった。上り坂に苦しんでいたカヴェンディッシュだが、頂上1km手前にあるシンプソンの慰霊碑の前でヘルメットを脱いで一礼をする。じつはメルクスも、当時はヘルメットではなく帽子だったが、同じ行動を取ったことが伝説として語られている。

「伝説のメルクスにあやかり、伝説に肩を並べたい」。そんな気持ちがパワーとなった。

地元開催として期待された2012年のロンドン五輪では他国の徹底マークもあってメダルを逃した。それでもその挫折がさらに人間として成長させるきっかけとなったという。全盛期の力はない。東京五輪が当初の計画通りに2020年に開催されていたら、トラック種目で新採用されたマディソンで金メダルを獲得して有終の美を飾る計画もあった。リオ五輪ではオムニアムで銀メダルを獲得しているが、その複合競技で若手の体力に対抗するのはもはや限界。2人でペアを組むマディソンに活路を見出したが、コロナ禍で大会は延期。2021東京五輪はタイムオーバーとなっただけに、カヴェンディッシュが人生最後のターゲットとするのがツール・ド・フランスでのステージ優勝記録更新だった。

35勝を記録した第5ステージ後のカヴェンディッシュのインタビュー。
「ツール・ド・フランスは15回参加しているので、やるべきことはわかっている。もちろん山岳で苦しむのは好きじゃないけど、頭の中で頑張れば乗り越えられると言い聞かせている。今日のためにあらゆることをやり続けた。ツール・ド・フランスはすでに自転車競技という存在よりも大きなものだからね」


さいたまでキッズレースに参加 ©Yuzuru SUNADA


2021年に勝利数を34に ©A.S.O. Alex Broadway


カヴェンディッシュが2024年第5ステージで35回目の優勝 ©A.S.O. Jonathan Biche

プロフィール

マーク・カヴェンディッシュ

●国籍:英国
●生年月日:1985年5月21日
●所属チーム:ディメンションデータ(2017)
●現況:アスタナ・カザクスタン所属選手
【主な戦歴】
●ツール・ド・フランス ポイント賞(2011, 2021)
●世界選手権 ロードレース優勝(2011)
●ツール・ド・フランス マイヨジョーヌ着用(1日) (2016)
●ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム優勝(2017)
●ツール・ド・フランス区間通算35勝(大会最多記録) (2024)


ライター/山口 和幸 Kazuyuki Yamaguchi
ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に講談社現代新書「ツール・ド・フランス」、「シマノ〜世界を制した自転車パーツ〜堺の町工場が世界標準となるまで」(光文社)。